ポスドク志望者へ

 

私は40年に亘る研究生活のなかで物性理論の研究分野を広くカバーし、多くの知識・技法を体得したが、今後はこの経験に基づいて、(流行に惑わされずに)どのようなテーマが物理学の明日に対して重要かという感覚を次の世代に伝えたいと思う。実際、そのような観点から、「物性物理学III」の講義をしている。(「大学院講義」のウェブページを参照されたい。その講義におけるテーマの大半は学部で学習するような基本知識・概念に関するものではあるが、未だに十分に解決されていない問題が多くあることを指摘している。)

今年度以降、私の研究室にポスドクとして参加したいという若手研究者には、次の2つのテーマのいずれかを強く勧める。
(1)超伝導転移温度の第一原理計算 
[参考文献1] 
(2)一電子グリーン関数と相関関数の高度な自己無撞着計算 
[参考文献2] 
 いずれのテーマを選んでも、今後10年以上にわたって世界をリード出来るように十分なお膳立てをするので、ある程度の成果を挙げられさえすれば、研究者としての将来が保証されると思う。

ちなみに、欧米の優秀な大学院生や若手ポスドクのスタンダードな考え方でいえば、研究生活の出発点では(多少、自分が本来やりたいこととは違っていても)世界一流の研究者のテーマに深く関わったものから始めるということである。何が本当に重要なテーマかどうかも判断がつかない状態で、自分の興味だけで突き進むことは危険であるだけでなく、他の人の考え方や手法を深く理解する機会を失う。
 いずれにしても、自分が本当に興味がある問題を本格的にやるのは自分で研究テーマが自由に選べる立場(PI:プリンシパル・インベスティゲータというもの)になってからであって、大学院生やポスドクの時期はその準備段階である。そして、この時期の最優先課題は出来るだけ早くPIになるにはどうするかを考えることである。
 以上のことは、日本における大半の大学院生や若手ポスドクの人、とりわけ、物性理論志望の人が考え違いしていることなので、老婆心ながら、あえて申し上げる。
参考: インタビュー記事

 

最近の研究テーマ

約10年前から下のようなテーマを中心としている。ただし、大学院生には上に挙げた2つのテーマ(とくに、超伝導転移温度の第一原理計算)を勧める。

1. 自己エネルギー改訂演算子理論:
  
多電子系での量子干渉と交換相関効果  [参考文献3]
2. 時間に依存した密度汎関数理論:
  
不均一電子ガス系の動的応答 
3. バーテックス補正の入った強結合超伝導理論:
  
電荷スピンフォノン複合系における(相関長の短い)超伝導
4. ポーラロン・バイポーラロン:
  
ヤーンテラー系の特異性や非調和項の効果
5. 量子固体:
  
高圧下固体水素での陽子の量子ゆらぎとその電子系への影響
6.光の量子相転移 [参考文献4]


高田康民の略歴
   

195010 兵庫県淡路島生まれ
1974 3 東京大学理学部物理学科卒業
1979 3 東京大学理学系大学院物理学専攻博士課程修了(植村研究室)・理学博士
1979 4 東京大学理学部助手(植村研究室)
1981 6 米国Purdue大学物理学部助手(A. W. Overhauser研究室)
1983 7 米国California大学Santa Barbara校理論物理学研究所助手(W. Kohn研究室)
1985 7 東京大学物性研究所物性理論研究部門助教授
2004年 3月- 東京大学物性研究所物性理論研究部門教授

2000年以前の研究課題の変遷